新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

大司教の井戸

 スティーヴン=ジョーンズが編纂したクトゥルー神話アンソロジーWeirder Shadows over Innsmouth にレジー=オリバーの"The Archbishop's Well"が収録されている。オリバーは英国の作家だが、日本ではほとんど注目されていないようだ。唯一、橋本輝幸氏が言及しているのを見かけた。

 橋本氏には「ヘンな話作家」と呼ばれているが、"The Archbishop's Well"は至ってオーソドックスな話だった。オックスフォード大学の学監だったチャールズ=ヴィリアー博士が亡くなり、彼の生前の日記を息子が発見する。ウェセックス大学で中世史を専攻する講師だったチャールズがその仕事をやめてしまう原因となった1938年の出来事が日記には書いてあった。
 聖アンセルモ大聖堂の参事会にいる友人のバーティー=ウィンスロップから仕事を頼まれたという1938年9月2日付の記述からチャールズの日記は始まっていた。大聖堂の敷地内にある古井戸を取り壊して新しく噴水を作る計画があるのだが、史跡としての井戸の価値を調査してほしいというのだ。
 井戸は非常に古いものだった。よからぬものが井戸に巣くって町の人々を大いに悩ませたが、7日7晩にわたるお祓いを聖アンセルモが井戸の底で行って怪異を鎮めたという言い伝えがある。その後ずっと井戸は使われないままとなっており、おそらく水が汚染されたのだろうとチャールズは判断した。
 チャールズが現地に赴くと、フェリックス=カットバースなる異様な男が現れる。井戸に手を出すなとカットバースから警告を受けるチャールズ。ダゴン様を崇める小さなカルト教団をカットバースは地元で主宰しているということだった。
 チャールズとバーティーは井戸に入ってみることにした。水はとっくに涸れており、井戸の内壁に階段が作られているので、それを使って下りることができる。おそろしく深い井戸の底に二人がようやく辿りつくと横穴があり、泥の中に冠が埋もれているのが見つかった。ただし常人の倍くらいある頭でないと、その冠にはサイズが合わない。井戸から出るときに冠を持ったのはバーティーだったが、途中で落としてしまったと彼は言い訳した。
 チャールズは首席司祭の家に宿泊していたが、夜中に叩き起こされた。バーティーが行方不明になったというのだ。再び井戸の底に下りるとバーティーが転がっており、裸のカットバースがなにやら儀式を行っていた。
「いあ ルルイエ! クトゥルー ふたぐん! いあ いあ!」
 横穴を通ってきたとおぼしき深きものもいた。よくある半魚人ではなく、いっぱい触手が生えたタイプのやつだ。首席司祭から借りた拳銃をチャールズは連射する。深きものの片眼に銃弾が当たったが、怪物が攻撃したのはチャールズではなくカットバースだった。意識を失っているバーティーを死にものぐるいで引きずりながらチャールズは脱出する。こうしてバーティーは精神病院に送られ、チャールズは大学の仕事をやめたのだった。おしまい。
 どうということのない話なのだが、聖アンセルモは実在の人物である。彼が行ったお祓いの詳細は不明だが、それによって何百年も平和が保たれたことは事実だ。ダーレスによれば聖アウグスティヌスクトゥルーの眷属を封印したことがあるそうだし、いにしえの聖者たちは何かを知っていたのかもしれない。