クトゥルー神話におけるツンデレ
クトゥルー神話世界のツンデレキャラといえば、代表的なのはブライアン=ラムレイの幻夢境シリーズに登場する死霊姫ズーラだろう。『ラヴクラフトの幻夢境』でNPCとして紹介されているので御存じの方もいるかもしれないが、彼女は幻夢境の「歓楽かなわぬ地」ズーラを支配する姫である。Ship of Dreams で初登場し、セラニアンが誇る新鋭艦スカイマスターを瞬殺して高笑いするあたりは実にあっぱれな悪役ぶりだった。クトゥルー神話TRPGにおいてズーラのAPPが18もあるのは原作の設定を忠実に反映したものだが、空中艦を浮揚させるのに必要な反重力物質を無効化するガス弾を開発するなど、美貌だけでなく能力の高さを見せつけてくれる。実は哀しい過去を背負っているのだが、まったく同情する気になれないほどの凶悪さが逆に清々しい。
幻夢境全土に宣戦布告したズーラは手始めにセラニアンを攻略する。自ら大艦隊を率いて陽動作戦を展開しつつ、セラニアンの機関室に破壊工作員を潜入させるという策略は見事だったが、館長*1の参戦によって敗北した。続編のMad Moon of Dreams でも謀略を巡らすが、途中から味方となる。ヒーローとエルディンの生存が絶望視されたときは彼らのために涙を流していた。この時点で充分ツンデレっぽいのだが、真骨頂が発揮されるのはクロウ・サーガの完結編となるElysia : The Coming of Cthulhu である。ナイアーラトテップの下僕に拉致されたヒーローとエルディンを奪還しようとするド=マリニーにズーラも協力し、無事に助け出されたヒーローは彼女に礼をいう。その時のズーラの反応は――
「か、感謝など要らぬ。ド=マリニーのやつに言われて仕方なく手伝っただけだからな。馴れ馴れしくするでないっ」
ズーラが代表的な例だとすると、最古の例は何だろうか。
ロバート=E=ハワード「影の王国」1929年発表
ぱっと思いつくのは、これだ。時はアトランティスの時代、蛮族の出身でありながらヴァルーシアの王となったカルが、王国を陰から支配する蛇人間に立ち向かう。邦訳があるので詳細は割愛するが、ヴァルーシアの蛇人間を神話大系に導入したという割と重要な作品だ。
カルに助太刀する登場人物がブルール。神槍の異名を持つ天才で、ピクト最強の戦士として知られる。ピクト最強ということは――人類最強ということだ! そのブルールがカルと二人きりで死地へ赴くとき、次のように発言している。
「陛下のことはまったく好きではないのですが……ここで死なれたら困りますからな」
というわけで、ブルールをクトゥルー神話史上初のツンデレと呼ばせてもらいたい。おまえはツンデレの意味を誤解しているというツッコミは認めぬ。
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