新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

こちらランドリー・クリスマス奇譚

 「12月のクトゥルーの季節」という企画が2009年にTor Booksの公式サイトであり、その一環としてチャールズ=ストロスの"Overtime"が公開された。現在も無料で読むことができる。
Overtime | Tor.com
 "Overtime"は〈ランドリー〉シリーズに属する短編。作者のブログによると、The Fuller Memorandum から18カ月以内に起きた出来事の話だそうだ。*1
 ランドリーのような組織でもクリスマスはそれなりに祝うことになっている。乏しい予算をやりくりしてパーティーが催され、ランドリーはささやかながら華やいだ雰囲気に包まれた。だが予知作戦チームのクリングル博士がスピーチを始めると、お祭り気分はたちまち吹き飛んでしまった。
「こうやってクリスマスを祝うのも、今年が最後になるでしょう」
 来年のクリスマスが来る前に旧支配者が復活するという意味だ。それでもボブにできるのは普段通りに仕事をすることだけだった。パーティーが終わり、彼は夜勤のために独り職場に居残る。
 退屈な夜勤をこなしながら、ボブはふと違和感に囚われた。もう真夜中近い時間だが、彼は上司のアンディに電話をかけてクリングル博士のことを訊ねた。
「えっ、予知作戦なんて聞いたこともないよ」というのがアンディの返事だった。パーティーの場にクリングル博士を連れてきたのはアンディなのに、当人が彼のことを覚えていないのだ。
 ボブが地下室に駆けつけると、そこにクリングル博士がいた。かつてランドリーでは予知作戦が実行されたことがあったのだが、チームが邪神の餌食になってしまうことが判明したため即座に解散させられていた。ボブはいう。
「あんたは、実現しなかった未来の残影なんだ」
「未来はここにあるよ」
 「クリスマスキャロル」のパロディみたいな話だが、クリングル博士の予言は自己成就しかかっていた。午前0時になれば、予言された異次元の魔物〈靴下を満たすもの〉が現れる。要するにサンタクロースの正体なのだが、人類の危機である。
 しかしボブには策があった。クリングル博士の話を聞いて一同が食欲をなくしたためミンスパイが大量に余っており、ボブはそれを冷蔵庫から持ち出していたのだ。彼はすばやく床に魔法円を描き、残り物のパイを差し出した。〈靴下を満たすもの〉は供物を得て満足し、引き上げていく。クリングル博士も消滅し、後にはひとかけらの石炭だけが残っていた。〈靴下を満たすもの〉からボブへの贈物だった。