新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

リッサの鉄棺

 リッサの鉄棺というのは人間を鉄の棺に閉じこめ、蓋を押し下げることによって圧死させる装置なのだが、この処刑器具を題材にした短編をダーレスが書いている。そのものずばり"The Coffin of Lissa"という題名で、ウィアードテイルズの1926年10月号が初出。つまりダーレスの最初期の作品だ。
 主人公は異端審問で有罪を宣告され、リッサの鉄棺で処刑されることになった。トルケマダの名前が出てくるところを見ると、おそらく15世紀のスペインが舞台なのだろう。主人公の名前は明らかでないが、本人の弁によると妻子がいるらしい。
 主人公は棺に閉じこめられ、ネズミに手をかじられながら徐々に押し潰されていく。しかし気がつくと、彼がいるのは独房だった。実は精神異常者として癲狂院に収容される身だったのだ。あの怖ろしい処刑は妄想に過ぎなかったのだろうか? だが、彼の手の指はネズミに食いちぎられたかのように何本か欠けていた。彼は悲鳴を上げ、それに呼応して他の独房からも叫喚が聞こえてきたのだった……。
 という話だ。若書きの感は否めないが、ポオの「穽と振子」に「早すぎた埋葬」を混ぜ合わせたような風味がある。1928年に刊行されたアンソロジーNot at Night! に「蝙蝠鐘楼」と合わせて収録された。なお、このアンソロジーにはラヴクラフトの「レッドフックの恐怖」も収録されている。
H. P. Lovecraft And His Legacy: Signed by Derleth, Lovecraft, and Asbury
 リンク先の記事で紹介されているのは、とある図書館が廃本処分にしたというNot at Night! だ。すでにぼろぼろだが、遊び紙にラヴクラフトとダーレスのサインがある。「本が届いたのでサインしました」とラヴクラフトは1928年12月26日付の手紙でダーレスに連絡しているが、この本というのがNot at Night! のことだろう。
 ラヴクラフトとダーレスが一緒にサインするというのはアンソロジーの編者ハーバート=アズベリーの発案によるものらしく、アズベリー自身のサインもある。非常に希少な本だが、この一部だけというわけではないらしい。同じようにサインされたものをロバート=ワインバーグが所蔵していると聞いた。