新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

君が邪神を見るとき、邪神も君を見ている

 ブライアン=ラムレイの初期の作品に"Recognition"というクトゥルー神話短編がある。1977年、ラムレイがまだ英陸軍の准尉だった頃に発表された作品で、1981年に発表された。
 マリオット卿が新しく買った地所は呪われているという噂だった。転売することもままならないので、彼は事態を解決するために数名の専門家を呼び寄せる。語り手はオカルトに精通しているというわけではなかったが、マリオット卿とは古くからの友人だったので、見届け役として参加することになった。
 語り手以外に招かれたのは元牧師のダンフォード、霊媒師のターンブルとラヴェリー。マリオット卿に促されて、語り手は地所の来歴を解説しはじめる。彼が調査したところによると、呪いの原因は17世紀まで遡るものだった。当時その地所に住んでいた一族はイグザム修道院のデラポーア一族と交流するなど良からぬ評判があり、アトラク=ナクアと呼ばれる神を崇めていたというのだ。
 1618年に一族の館は焼き払われ、彼らの名前は歴史から抹消されたが、怪異が終わったわけではなかった。いまから3年前に一人の人類学者が6週間ほど地所を借りて滞在したが、5週間目にはすっかり発狂していたと語り手は報告する。人間が魔物を見るとき、魔物も人間を見ているというのが彼の仮説だった。
 ラヴェリーが降霊の儀式にとりかかるが、その最中に発作を起こしてしまう。それまで自信満々だったダンフォードはすっかり狼狽し、そそくさと立ち去った。マリオット卿と語り手はとりあえず館を出てホテルに泊まることにしたが、ターンブルだけは計画を変更しようとせず、一人で実験を続けると言い張る。やむなく二人は彼を後に残した。
 不安な気持ちで一夜を過ごしたマリオット卿と語り手は館に戻る。案の定、彼らが館の前の道で発見したものは穴だらけになったターンブルの亡骸だった。凍りついた血だまりの中に転がり、すさまじい恐怖の表情を顔に浮かべている。
 ターンブルの遺したスケッチを発見したマリオット卿はそれを語り手に見せる。描かれていたのは、蜘蛛のような姿をした怪物だった。狂乱した語り手は「見せないでくれ! 知りたくない、知りたくないんだ!」と叫びながら駆け出すのだった。
 触らぬ神に祟りなしという話だ。ラムレイによるアトラク=ナクアの話とは珍しいが、彼は主人公をタイタス=クロウにすることも考えたらしい。そうしなかった理由について「クロウはずっと豪胆で……詮索好きな性格だからね」とラムレイは説明している。

Haggopian and Other Tales: v. 2 (Mythos Tales)

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