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主にクトゥルー神話のことなど。

恐怖名作百選

 スティーヴン=ジョーンズといえば『インスマス年代記』の編者だが、彼は商業・非商業・アンソロジーの三部門で世界幻想文学大賞を受賞したという斯界の大物である。そのジョーンズがキム=ニューマンと組んで編集したのがHorror: The 100 Best Books だ。これは100人の作家・評論家がホラーの名作を一つずつ選んで講評するという趣向の本で、詳しい内容は藤原編集室で紹介されている。
www.green.dti.ne.jp
 ここに挙げられている100冊のうち、ダーレスが関与している本は6冊に上る。いかなる6冊なのかを見てみよう。なお邦題は藤原編集室に倣った。

  • 『暗黒の儀式』

 いわずと知れたダーレスのクトゥルー神話長編である。ラヴクラフトとダーレスの「合作」と銘打たれているが、ラヴクラフトの手になる箇所は5万語のうち1200語に過ぎない。したがって実質的にはダーレスの作品なのだが、北米の先住民族が旧神の印でツァトゥグアの落とし子を封じたという構想はラヴクラフトに由来する。この作品を選んでくれたのはグレアム=マスタートンだ。

 ラヴクラフトの作品集であり、記念すべきアーカムハウス初の単行本。現在では数千ドルの高値がついているが、森瀬さん(id:molice)に現物を見せてもらったことがある。普段は稀覯書にあまり敬意を払わない方なのだが、そのときばかりは畏敬の念を覚えざるを得なかった。この本を選んだのはドナルド=A=ウォルハイムである。

  • 『空間と時間の彼方に』

 C.A.スミスの作品集。1942年にアーカムハウスから刊行された。この本を選んだのはハーラン=エリスン。自分が作家になったのはスミスに憧れたからなのだとエリスンは語っている。

  • 『眠りと死者』

 版元はアーカムハウスではないが、ダーレスが編集したアンソロジー。収録されている作品の一覧はここで見ることができる。この本を選んだのはピーター=ヘイニングだ。

  • 『九つの恐怖と一つの夢』

 ジョゼフ=ペイン=ブレナンの作品集。1958年にアーカムハウスから刊行された。ブレナンはスライムを創造した作家として有名だが、「ラヴクラフト没後の米国において怪奇文学の最高峰を究めた」とS.T.ヨシは彼のことを称讃している。この本を選んだのはスティーヴン=ギャラガーである。

  • 『そして闇が来る』

 ボリス=カーロフの編集したアンソロジー。収録されている作品の一覧はここにあるが、ラヴクラフト・ダーレス・スミスとクトゥルー神話の三聖が揃い踏みしている。ダーレスの作品で採られたのは"The Panelled Room"*1で、これを収めるとはカーロフも眼が高い。なお、同じくカーロフの編集したアンソロジーであるBoris Karloff's Favorite Horror Stories には「風に乗りて歩むもの」が収録されている。この本を選んだのはデイヴィッド=G=ハートウェル。
 ダーレスの長編が1冊、短編が収録されているアンソロジーが1冊、ダーレスの編集したアンソロジーが1冊、アーカムハウスから刊行された本が3冊、合わせて6冊になる。ダーレスが作家・編集者・出版者のいずれとしても秀でていたことの証左だろう。

Horror: The 100 Best Books

Horror: The 100 Best Books