新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

カトゥロス

 ラヴクラフトの「闇に囁くもの」には「ルムル=カトゥロス」への言及があるが、一体これは何者なのか。C.A.スミスは1937年4月13日付のダーレス宛書簡で「一部もしくは全体がロバート=E=ハワード由来」と説明している。いかにもハワードの作品には「カトゥロス」が登場するが、「ルムル」はラヴクラフトが後から付け足したように思われる。そこでスミスは「一部もしくは全体」という言い方をしたのだろう。
 話は1929年に遡る。ウィアードテイルズの10月号から12月号にかけて、「スカルフェイス」というハワードの中編小説が連載された。この作品で悪役を務めるのが、アトランティスの生き残りを自称する犯罪結社の総帥カトゥロスである。『H.P.ラヴクラフト大事典』にもあるように、「スカルフェイス」を読んだN.J.オニールなる人物がウィアードテイルズに投書し、カトゥロスとクトゥルーは何らかの関係があるのかと質問した。だがハワードは「スカルフェイス」を執筆した時点ではクトゥルーのことなど知りもしなかったという。
 ハワードはオニールの投書を踏まえてラヴクラフトに手紙を書き、クトゥルーにまつわる伝承は実在するものなのかと訊ねた。すべて自分が創作したものだとラヴクラフトは1930年8月14日付の返信で回答し、そのついでに「君のカトゥロスと私のクトゥルーを同一視するというのはおもしろい考えです――将来、不吉なる暗示の中でカトゥロスを使わせていただくかもしれません」と述べている。この言葉が「闇に囁くもの」において実現したということだろう。一方、ハワード自身も「われ埋葬にあたわず」でカトゥロスに言及し、彼とクトゥルー神話大系のつながりをより確かなものにしている。