「ダゴン」余話
C.A.スミスが師匠のジョージ=スターリングに宛てて書いた1923年2月9日付の手紙より。
僕自身は何も書いたことがありません。ですが、僕の知り合いが送ってくれた小説がここにあります。彼はH.P.ラヴクラフトといって、ラヴマンの友人です。ポオ・ビアス・ダンセイニ風の作品を書く人で、その最高傑作は驚くほど想像力に富んでいます。「ダゴン」は返却くださいますよう、そして御感想をお聞かせください。
スミスは1922年からラヴクラフトと文通しており、彼から送られてきた「ダゴン」の原稿をスターリングに読んでもらったのだ。「クライマックスが物足りない」とスターリングは評し、次のように提案した。
怪物が礼拝を始めたとき、唐突に地震が起きてモノリスが倒れ、怪物を押し潰してしまうというのはどうでしょうか。同時に泥濘の中から怪物の仲間がぞろぞろと出てくるのです。
スミスはスターリングの提案をラヴクラフトに伝えた。ラヴクラフトはスミスに対しては慇懃な返事をしたものの、当時ウィアードテイルズの編集長だったエドウィン=バードに宛てた手紙では「バカバカしいです。こういう助言をもらってしまうと、詩人は詩だけ書いていればいいのだという気分になります」と述べている。
ラヴクラフトは私信のつもりだったのだろうが、バード編集長は何を考えたのか彼の手紙を「ダゴン」と一緒にウィアードテイルズの1923年10月号に掲載してしまった。こっそり本音を漏らしたつもりが大っぴらにされてしまったので、ラヴクラフトはうろたえたということだ。なおスミスもスターリングの提案には賛成しなかったようで、ラヴクラフトが正しいと後年ロバート=バーロウに語っている。