新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

愛は勝つ

 昨日の記事でC.J.ヘンダースンの"Admission of Weakness"を紹介したが、その続編に当たるのが"To Cast out Fear"だ。この題名は新約聖書の「ヨハネの第一の手紙」4章18節にある「愛に恐怖はない。完全な愛は恐怖を打ち払うものである」という言葉に因んだもので、アントン=ザルナックが閻魔の招喚を何とか阻止した直後から始まる。
 戦利品である閻魔の面をザルナック博士が書斎の壁に掛けていると、来客があった。包みを抱えた長身の男だ。男はジョン=レイモンド=ルグラース元警視正と名乗った。御存じの方も多いだろうが、ラヴクラフトの「クトゥルーの呼び声」でクトゥルー教団と戦ったニューオーリンズ市警の警察官だ。
 ソーナー警部補とは最初そりが合わなかったザルナックだが、教養のあるルグラースとはすぐに打ち解けた。シンが運んできた料理をザルナックと一緒に食べながら、ルグラースは話をする。警察を辞めた後も彼の戦いは続いていた。暗黒教団のアジトのひとつに警官隊と共に踏みこんだルグラースは、怪物の逆襲に遭って多数の犠牲者を出しながらも、そこでクトゥルーの像を再び手に入れた。ルグラースがザルナックのもとに持参した包みの中身は、その神像だったのだ。現役でなくなったルグラースが警官隊を率いているのはいかがなものかと思わないでもないが、ロバート=プライスの作品では私立探偵のスティーヴ=ハリソンが警察の捜査に口出しするし、この世界では珍しいことでもないのだろう。
 実はルグラースはギーセット教授に会いに来たのだが、彼が失踪中とあっては仕方ない。ザルナックとルグラースはまず神像を調査することにし、サーナ=ラ=ラニエラというアフリカ系の霊能力者を助っ人として呼ぶ。そこに旧支配者が異次元から攻撃をしかけてきた。人間の恐怖や苦痛につけこむ旧支配者に愛の力で立ち向かうザルナックとサーナ。人種主義者のルグラースも2人の姿を見て自分の誤りを悟り、愛に皮膚の色は関係ないと認める。3人は力を合わせて旧支配者を撃退するのだった。題名通りの結末になったわけである。