新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

「アヴェロワーニュの獣」完全版

 東京創元社から『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』が刊行された。これでC.A.スミスのアヴェロワーニュ伝説がすべて日本に紹介されたといいたいところだが、邦訳された「アヴェロワーニュの獣」は実は短縮版である。
 本来の「アヴェロワーニュの獣」はボイド=ピアソンのサイトで原文が無償公開されているが(参照)、三部構成になっている。第1部はジェローム修道士、第2部はテオフィル院長が語り手であり、緊迫した雰囲気が充分に高まった第3部で満を持してリュク=ル=ショードロニエが登場する。スミスは原稿をウィアードテイルズに送ったが、編集長のファーンズワース=ライトは受理しようとしなかった。何がいけないのかわからないといいながらスミスは第3部だけ残して原稿を書き直し、これはウィアードテイルズの1933年5月号に掲載された。
 必ずしも短縮版が劣っているわけではないのだが、情報量は当然オリジナル版のほうが多い。かつてヒューペルボリアの時代にも似たような妖魔が地球に襲来したが、その時はエイボンが戦って退治したとオリジナル版にはさりげなく書いてあったりする。また結末もいささか異なっており、オリジナル版ではエイボンの指輪は砕かれていない。『クトゥルフ神話TRPG キーパーコンパニオン』にはエイボンの指輪が出てくるが、その設定はオリジナル版に準拠しているのだろう。ル=ショードロニエが粉々に砕いてしまったのであれば後世には伝わらないはずだからだ。

クトゥルフ神話TRPG キーパーコンパニオン (ログインテーブルトークRPGシリーズ)

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