クリスマス向けの話ということで、ドナルド=R=バールソンの"Christmas Carrion"を紹介させていただく。Dead But Dreaming 2 に収録されている短編で、舞台となっているのはラヴクラフトの創造したキングスポート。そこに住んでいる怪老人が主役だ。
怪老人はかつて船長だったが、今は200歳を超えて隠居の身だ。彼の家にある瓶には昔の部下たちの魂魄が入っており、栓を抜くと亡者が一時的に甦る。しかし、船長がすっかり腑抜けになってしまったと部下たちは怪老人を咎めるのだった。
「ほら、いったとおりだろう?」と仲間に話しかけたのはエリス航海士だった。
「まったく、なっちゃいねえよなあ」のっぽのトムが相槌を打った。
「昔のあんたは男の中の男だったのによ」スカーフェイスが嘆く。
「あんたに襲いかかってきた4人の男を一瞬で斬り倒したこともあったよな」とピーターズがいった。
「今のあんたは抜殻だぜ」とエリス航海士はいう。「だが、船長――これから3人の客が来るぞ」
「何だと?」怪老人は訝った。「そいつらも幽霊なのか?」
「いや、金目の物が目当ての連中さ。俺たちは手助けしない」
そして船乗りたちは瓶の中に帰っていった。後に残ったのは、エリス航海士が持っていた短刀だけだった。
エリス航海士のいったとおり、夜中になると3人の強盗が押し入ってきた。彼らは怪老人を痛めつけ、蓄えの在処を白状させるつもりだったが、怪老人はエリス航海士の短刀を握りしめる。昔の勇気と力を取り戻した彼は3人の強盗を切り刻んだ。死体の始末を済ませた彼は手を合わせ、呟くのだった。
「みんな、ありがとうな」
というわけで、これはラヴクラフトの「怪老人」の裏話である。題名からもわかるように、チャールズ=ディケンズの「クリスマスキャロル」のパロディでもあり、ラヴクラフトとディケンズへの献辞がついている。
なお、バールソンの作品で邦訳されたものとしては、『ラヴクラフトの世界』(青心社文庫)に収録されている「点を結ぶ」がある。バールソンはラヴクラフト研究家として有名な人だが、小説家としては見るべきものがない――と思っていたのだが、"Christmas Carrion"はちょっといい話だ。
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