新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ダニッチは夢見、ダニッチは叫ぶ

 エディ=C=バーティンといえば、シアエガを世に送り出した"Darkness, My Name Is"で有名なクトゥルー神話作家だが(参照)、他にも"Dunwich Dreams, Dunwich Screams"という神話短編を書いている。"Darkness, My Name Is"もそうだが、題名がかっこいい。
 "Dunwich Dreams, Dunwich Screams"の舞台となるのは英国のダニッチだ。ダニッチという名前の村はサフォーク州に実在し、そのことを踏まえた上でバーティンはかなり自由に物語を展開している。
 バーティン本人がモデルとおぼしき作家がダニッチを訪れる。『永劫に呪われし者たち』に英国のダニッチへの言及があることを知り、もしかしてラヴクラフトは「ダニッチの怪」の着想を『永劫に呪われし者たち』から得たのではないかと興味を覚えたのだ。
 かつてダニッチは富み栄えた都だったが、その大半は今や海中に没し、わずかな村が残っているばかりだった。浜辺で海を眺めている作家に老人が話しかけ、16世紀にダニッチで起きた事件のことを教えてくれる。当時ダニッチには修道院があったが、国王ヘンリー8世のお触れによって破壊され、修道士たちは皆殺しにされた。一人の修道士が重傷を負いつつも逃走したが、結局は見つかって殺され、魔女だという評判のあった女性セーラ=ラヴクラフトも彼を匿った咎で処刑されることになった。ちなみにセーラというのはラヴクラフトの母親の名前でもある。
 火あぶりにされることになったセーラは崖の上の十字架に縛りつけられた。見物している群衆に向かって彼女はいう。いつも私はおまえたちの病を癒し、悩みを解決してやっていた。それなのに、この仕打ちか! セーラが両手を挙げると、鎖はほどけて地面に落ちた。彼女は後ろ向きに倒れ、海に墜落する。そして、その日から怪異が始まった。殺された修道士たちとセーラは実は密かにダゴンを崇拝していたのだ……。
 クリスという少年の眼を通して語られるダニッチの破滅が作品の大部分を占めている。海に呑みこまれたダニッチからかろうじて脱出したクリスはセーラの娘リジーと結婚し、夫婦ともに80過ぎまで生きたという。話を終えた老人を作家が見ると、彼は若者の姿に変わっていた。若者はクリスの幽霊だったのだ。
「あんたもいつかは彼らを見つけることでしょう。あるいは、彼らがあんたを見つけ出すことでしょう」
 そういうとクリスは姿を消し、後には茫漠たる海が広がっているばかりだった。欧州を舞台とするバーティン流のクトゥルー神話。読んだ後に残る不思議な余韻が印象的だ。

Tales Out Of Dunwich

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