新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

この世のありったけの幸運を

 ロバート=E=ハワードが1932年10月頃に書いたラヴクラフト宛の手紙から。ダーレスの作品が『アメリカ短編小説傑作選』で三つ星を獲得したとラヴクラフトが知らせてくれたことに対する返事である。

ダーレスおめでとう! どの作品が載ったのですか? ジョン=マレル(訳註――19世紀半ばにミシシッピ川流域で活動した強盗団の首領)の口癖に倣えば、ダーレスが「鞍帯のきちんとしたやつ」だということを僕は何年も前から知っておりましたよ。ウィアードテイルズの読者はもっと彼に注目していいはずです ――きっとダーレスが短編ばかり書いているからでしょうね。一般的にいって、読者は長い話を好むようです。ダーレスがんばれ。この世のありったけの幸運がダーレスのところへ行きますように。

 同じ手紙でC.A.スミスのことも話題になっている。

スミスの作風は独特です――少なくとも僕にはそう見えます――どことなくペトロニウス風の彩りがあるのです。スミスが古典を模倣しているなどといいたいわけではありませんが、古典的としか形容しようのない微妙な陽気さが彼の作品にはあります。スミスが密かにしのばせた暗示や引喩に腹の底から笑ったことがありますよ。思うに、このためスミスの作品は純然たる怪奇小説ではなくなっており――いかに微妙ではあっても、真正の恐怖にはそぐわないユーモアというものがあるのです――まったく独特の小粋な諧謔を帯びています。スミスが正真正銘の恐怖小説を書けることは、ストレンジテイルズに載った「妖術師の帰還」などから明らかです。僕は編集部に手紙を書いたのですが、あれは僕が今までに読んだ中で最高におぞましい作品のひとつであり――言い換えれば、紛れもない傑作です。前にも申し上げたことですが、スミスを超える怪奇作家はラヴクラフトさんだけだと思います。

 やっぱりハワードはいいやつだ。