東京創元社から刊行されたC.A.スミスの作品集『ヒュペルボレオス極北神怪譚』には「歌う炎の都市」も収録されているが、これは幻想文学史上なかなか重要な一編といえるかもしれない。自分は子供の頃に「歌う炎の都市」を読んで作家を志すようになったとレイ=ブラッドベリが回想しているからだ。*1また「歌う炎の都市」は自分の人生を変えたとハーラン=エリスンもHorror: The 100 Best Books で語っている。初めて「歌う炎の都市」を図書館で読んだとき、感動のあまりエリスンはその本を盗んでしまったそうだ。
ブラッドベリは長じて願い通りに作家となった。〈アーカムサンプラー〉に掲載されたブラッドベリの短編を読んだスミスは1949年2月11日付のダーレス宛書簡で次のように感想を述べている。
〈アーカムサンプラー〉に載った君の詩は大好きです。特に最後の2行がすばらしいですね。スターレットの詩も実にいい。小説ではグレンドンの「開けゴマ」が気に入りました。今回のブラッドベリは「うまくない」という気がします――何かが足りないように感じられるのです。
ここでスミスが話題にしているブラッドベリの小説とは『火星年代記』の中の一話「夏の夜」である。スミスに憧れて作家になったブラッドベリなのに、彼から「うまくない」などと評されてしまうとは何だか気の毒だが、初期のブラッドベリの作風はスミスの影響を強く受けすぎているように思われる。スミスの真似をして書いた小説をスミス本人が読めば「何かが足りない」という感想になるのだろう。スミスの言葉をダーレスがブラッドベリに伝えたかどうかは知らないが、「足りない」とスミスが感じたものは「自分らしさ」だったのだろうか。
後に大作家となるレイ=ブラッドベリ、その若き日の話であった。
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