新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

クトゥルー神話と二元論

 これは私もずっと気になっていた。キリスト教徒だから二元論というのも変だし、キリスト教徒だから作品もキリスト教的というのも短絡的だ。「自分をカトリックの作家と考えたことは一度もない。むしろ、たまたまカトリックであった作家に過ぎないと思っている」とダーレスは述べており(参考)、宗教的信条を作品に反映させようという意思は希薄だったように思われる。そもそも彼は特に敬虔というわけでもなかった(参考)。
 旧神と旧支配者の宇宙的大戦という二元論的解釈がキリスト教的でないとすれば、何が本当の源流なのか。ジム=スティーヴンスという人がAn August Derleth Reader の序文で次のように述べている。

その物語が想起させるのは、私たちの無意識の奥深く隠されている宇宙的機序、言うなればイロコイ族やマヤにある双子の伝説である。双子の一人は光明の力を、もう一人は暗黒の力を司る。双子は人間の心に内在する二元的な力、成長と破壊のいずれかへと至る力の表象なのである。

 つまり、光と闇の双子が世界の支配権をめぐって永遠に争うというアメリ先住民族の伝説こそがクトゥルー神話の世界観に近いというのだ。光と闇の双子は対立的というよりは相互補完的な存在であり、常に双方があり続ける。
 この説はいささか突飛に思われるかもしれないが、ダーレスが先住民族の文化や伝承に詳しかったことは少なくとも事実である。中期の代表作であるThe Wisconsin: River of a Thousand Isles においてダーレスはソーク族の物語に多くのページを割き、白人に土地と生活の手段を奪われた彼らの抵抗と運命を克明に綴っている(参考)。

An August Derleth Reader (Prairie Classics)

An August Derleth Reader (Prairie Classics)