新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

ホーマーとラングレー

 ホーマー=コリヤーとラングレー=コリヤーはマンハッタンの豪邸に住んでいた実在の兄弟である。彼らは何十年もゴミを収集しては屋敷の中に蓄え、噂の的になりながら引きこもりの暮らしを続けていた。兄弟が世を去ったとき、屋敷の中に積み上げられたゴミは合計130トンにおよび、その山の中からラングレーの遺体を発見するのには数週間を要したという。
 コリヤー兄弟の生涯を描いたHomer & Langley: A Novel という長編小説を米国の作家E.L.ドクトロウが書いている。荒木飛呂彦鬼窪浩久の『変人偏屈列伝』にもコリヤー兄弟の話があるが、この兄弟は創作意欲を刺激するのだろうか。
 史実では1947年に他界したコリヤー兄弟だが、ドクトロウの小説では1970年代後半まで生きながらえ、ヒッピーたちの導師的存在になったりする。また史実ではホーマーが兄だが、ドクトロウは順序を入れ替え、ラングレーを兄としている。物語はホーマーを語り手として進行し、兄弟の生活の断片をつなぎ合わせることによって20世紀の米国の縮図が浮かび上がるという仕掛けになっている。
 第一次世界大戦の戦場で毒ガスを浴びて帰ってきたラングレーは「人類の歴史は際限ない反復であり、あらゆるものは代替可能である」と唱えるようになり、人間社会の真の姿を伝える恒久不変の新聞を作り上げるために古新聞を集めはじめる。徐々に荒廃していく兄弟の人生、それとは裏腹にラングレーの奇説が説得力を増していくのが怖い。Homer & Langley: A Novel は傑作であるというのが私の感想だが、もしかしたら私はコリヤー兄弟のような生き方に憧れているのかもしれない。

Homer & Langley: A Novel

Homer & Langley: A Novel