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主にクトゥルー神話のことなど。

親族殺しのゴル

Ghor, Kin-Slayer: The Saga of Genseric's Fifth-Born Son
 Ghor, Kin-Slayer というのは、ロバート=E=ハワードの断章を基にしたリレー小説である。ジョナサン=ベーコンという人が1970年代後半に企画し、彼の発行していたFantasy Crossroads という同人誌で連載された。参加した作家は以下の16人である。

  • カール=エドワード=ワグナー
  • ジョゼフ=ペイン=ブレナン
  • リチャード=L=ティアニー
  • マイケル=ムアコック
  • チャールズ=R=ソーンダーズ
  • アンドルー=J=オファット
  • マンリー=ウェイド=ウェルマン
  • ダレル=シュワイツァー
  • A.E.ヴァン=ヴォークト
  • ブライアン=ラムレイ
  • フランク=ベルナップ=ロング
  • エイドリアン=コール
  • ラムジー=キャンベル
  • H=ワーナー=マン
  • マリオン=ジマー=ブラッドリー
  • リチャード=A=ルポフ

 やけに豪華な顔ぶれだ。全員が原稿を提出したのだが、完結する前に掲載誌が廃刊になってしまった。その後ずっと埋もれていたのをネクロノミコン=プレスが発掘し、1997年に完全な形で単行本化した。
 ハワードの断章自体はごく短い。北方の荒野で暮らすヴァン族の長ゲンセリックに5番目の息子が生まれたが、その子は左脚がわずかに曲がっていた。脚の曲がった子など不要だと妻のグドルーンが主張したので、ゲンセリックはその赤ん坊を雪原に捨てたが、狼の群が彼を救って育て上げたのである──これがゴルだ。なお、ゴルは「妖蛆の谷」の主人公ニオルドと同じくジェイムズ=アリソンの前世であるということになっている。彼は何度も転生を繰り返すが、前世の記憶をすべて持っているのはアリソンだけである。
 ゴルは偶然ゲンセリックを殺し、ヴァン族と敵対するアース族に加わる。自分の出自を知った彼は復讐のために母親や兄弟たちを殺し、これが「親族殺しのゴル」と呼ばれる所以だ。その後、物語はスティギアの魔術師メントゥメネンとの戦いを中心に進行するが、ロングがティンダロスの猟犬を持ち出したことでクトゥルー神話作品になってしまった。ロングはゴルを人狼化させ、人狼はティンダロスの猟犬を使役することができるという新設定を披露している。なお意外に思われるかもしれないが、ロングの直前の章を担当したラムレイはクトゥルー神話の要素をまったく使っていない。
 ロング以降も神話化の流れは止まらず、コールは旧神の一員としてガイアを登場させている。そしてマンがゴルをスティギアの洞窟に乗りこませたとき、そこでは黒幕のナイアーラトテップが笛を奏でていた。するとゴルはクトゥグアを招喚して地下王国を崩壊させるのだが、「ラヴクラフト・サークル」の作家でクトゥグアに言及したのは、ダーレス以外ではマンくらいだろう。ルポフの担当した最終章で舞台は一気に現代のサンフランシスコへ飛び、アリソンが来客にゴルの話を語って聞かせるという夢オチ同然の終わり方をする。
 高名な作家が何人も参加した企画ではあるが、話の展開に無理があるため、全体的には怪作といわざるを得ない。だがクトゥルー神話ファンにとっては見所が多いことも確かだ。ロング・コール・キャンベルの書いた分は、ヒポカンパス=プレスから刊行されたThe Tindalos Cycle に再録されている。

The Tindalos Cycle

The Tindalos Cycle