旧支配者とは何か？

　『エンサイクロペディア・クトゥルフ』の著者紹介には次のように書かれている。

随筆「Who Were The Old Ones？」（オールド・ワンは何ものだったのか？）によって知られるようになり、 “「Shadow Over Usenet」論争”においても多くの独自の見解を提供した。

　"Shadow Over Usenet"というのは、alt.horror.cthulhuというニュースグループでかつて行われていたオンライン読書会である。ダニエル＝ハームズの投稿は随筆"Who Were The Old Ones？"と共にhttp://members.fortunecity.com/moderan/で読むことができる。
The Shadow Over Usenet
The Shadow Over Usenet-part two
Who Were The Old Ones?
　ラヴクラフトにおける「旧支配者」の意味が一貫していないことをハームズは"Who Were The Old Ones？"で指摘し、その変遷を作品ごとに検証している。

クトゥルーの呼び声	クトゥルーによって庇護される存在。
ダニッチの怪	クトゥルーは旧支配者を朧に窺うことしかできない。
狂気の山脈にて	南極の海百合状生物。
インスマスを覆う影	クトゥルーと対立する存在であり、その魔術はクトゥルーの眷属を抑えうる。

　ラヴクラフトは旧支配者の素性をとうとう明らかにしなかったとハームズは記し、次のように締めくくっている。旧支配者というカテゴリを作りたがるのは、恐怖を払いのけようとする我々の努力の表れなのかもしれない。だとすれば、旧支配者が何であるのかを明らかにしないことこそが、ラヴクラフトの作品を初めて読んだときの衝撃と驚きを蘇らせてくれるのだということになる──この随筆が書かれた当時は、クトゥルーやツァトゥグアが旧支配者だというのはラヴクラフト本来の設定ではないということすら見落とされがちだったのである。それから歳月が経ち、クトゥルー神学は長足の進歩を遂げた。ハームズやダン＝クロアといった人々のおかげである。

エンサイクロペディア・クトゥルフ