新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

不死鳥

 引き続きC.A.スミスの未訳作品を紹介させていただく。
 ダーレスが編集しているアンソロジーのために短編をひとつ書き上げたところだとスミスは1953年11月3日付のスプレイグ=ディ=キャンプ宛書簡で述べている。この短編は"Phoenix"という題で、P.K.ディックの「ジョンの世界」やアーサー=C=クラークの「その次の朝はなかった」と一緒にTime to Come に収録された。現在はボイド=ピアソン氏のサイトで無償公開されている。*1
 "Phoenix"の舞台となっているのは遠い未来の地球である。何らかの原因によって太陽の活動が衰え、地球は闇と冷気に覆い尽くされてしまった。人類は地下都市を築いて生き延びようとしたが、世代を経るごとに衰亡していくばかりだった。選ばれた7人の科学者が宇宙船フォスフォロス号に乗り込み、太陽に向けて決死の旅に出る。太陽に爆弾を撃ち込んで核融合反応を再開させ、人類を救おうというのだ。科学者の一人ヒラーは恋人のロディスに別れを告げて任務に就いた。
 太陽に接近したフォスフォロスはその重力に囚われて脱出できなくなる。死を覚悟しながら科学者たちは淡々と作業を進め、爆弾を設置する。任務を完了したフォスフォロスは燃料を使い果たし、太陽に突入していった。そして爆弾が炸裂し、それが誘引となって太陽は再び燃え上がった。蘇った太陽の光が地球に降り注ぎ、氷河が溶けていく再生の場面の美しさはスミスならではのものといえるだろう。そして物語は次のように締めくくられている。

その光景を目の当たりにして、ロディスの心は驚異の念に沸き立った。だが、溶けることのない氷のような大いなる悲しみが驚異の下にはあった。彼女にはわかっていたのだ──ヒラーは二度と帰ってこない。ただ彼が甦らせた光明だけが、生きとし生けるものを育む熱の煌めきだけが、彼の化身として戻ってくるのみだった。ヒラーの約束の言葉を思い出すのも、慰めというよりは皮肉であった。「僕は帰ってくる──太陽の光になって」

 これを読んで、私は何となく宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」を連想した。