新・凡々ブログ

主にクトゥルー神話のことなど。

華の魔神

 C.A.スミスに"The Demon of the Flower"という短編がある。アスタウンディング=ストーリーズの1933年12月号に掲載され、1944年にアーカムハウスから刊行されたLost Worlds に収録された。まだ邦訳はない。以下に粗筋を記しておこう。
 ロファイという惑星の住民は、巨大な花の姿をしたヴーアクアルという魔神に支配されていた。恋人の少女ナラが生贄としてヴーアクアルに捧げられることになった若者ルニティは遙か彼方まで旅をし、ヴーアクアルに対抗できる唯一の存在であるオクリスに助けを求めた。巨大な石柱の姿をしたオクリスから教わった方法でルニティはヴーアクアルを斃すが、ヴーアクアルがナラの胎内に埋め込んでおいた種子がすぐさま発芽し、新たなる花の魔神が誕生したのだった──という何の救いもない話だ。この作品はクトゥルー神話大系には組み込まれていないが、仮にヴーアクアルが旧支配者であるとすれば、オクリスは旧神に相当する存在である。だが、邪神に対抗しうる善の存在がせっかく登場したにもかかわらず、その助言が結局まったく役に立ってくれないあたりが実にスミスらしい。巨大な花の姿をしたスミス系の神様といえばヴルトゥームがいるが、さらにマイナーながら凶悪な存在としてヴーアクアルを紹介させていただく。
 Lost Worlds は後に何度か復刊された。また"The Demon of the Flower"の原文はボイド=ピアソン氏のサイトで無償公開されている。*1

Lost Worlds (Bison Frontiers of Imagination Series)

Lost Worlds (Bison Frontiers of Imagination Series)