覚醒
Nameless Placesは1975年にアーカムハウスから刊行されたアンソロジーで、A.A.アタナシオの"Glimpses"やリン=カーターの「時代より」といったクトゥルー神話作品が収録されているが、ここではデイヴィッド=ドレイクの"Awakening"を紹介させていただく。
ミッシーはメイドとして働いている孤児の少女。彼女の雇い主であるバーニー夫妻は二人とも魔術師で、最強の魔女としての天分を持つミッシーを自分たちの仲間に引き入れようと目論んでいる。奥方がミッシーを誘惑するが、ミッシーは秘められた力を解き放って彼女を瞬時に焼き殺し、宵闇の中へと姿を消したのだった──というのが「覚醒」の粗筋だ。クトゥルー神話作品ではない。どうということのない話だが、特筆に値するのは作中におけるミッシーの描写である。
The girl in the doorway wore a maid's uniform with a cap and apron. Dark hair and large eyes accented her triangular face.
というわけで、これはいわゆるアニメ顔そのものなのである。ドレイクが日本のアニメを観ていた可能性を私は考えてしまい、「1970年代前半までに制作された魔法少女もののアニメで米国に輸出されたものがあるか」などと知人に聞いて回ったことがあるが、たぶん関係ないのだろう。
「覚醒」は後にBalefiresに再録された。この本の一部がベインブックスの公式サイトで無償サンプルとして公開されており、「覚醒」も読むことができる。そんなに長い作品ではないので、関心を覚えた方は実際に読んでみるのも一興だろう。いかにも続編がありそうな終わり方だが、ミッシーが登場する作品をドレイクは結局これしか書かなかったらしい。
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ドレイクは「覚醒」をベトナムの戦場で書いたという。彼は原稿を奥さんに郵送し、奥さんはそれを清書してダーレスに送った。『無名の場所』が刊行されたのはダーレスの没後だが、「覚醒」を出版することを決定したのはダーレスである。この作品をダーレスが受理してくれたのは、自分が東南アジアにいる間に起きた数少ない慶事のひとつだとドレイクは回想している。